一般兵よりさらに一段高いレベルの体力基準が要求される特殊部隊。
その特殊部隊入りを目指す志願者に要求される『体力テストの基準』はどのようなものか?
ご紹介しましょう。
- 米海軍特殊部隊/Navy SEALs(ネイビーシールズ)入隊希望者に課される体力テスト
- 体力テスト(PST)に合格したら…
- BUD/S(基礎水中爆破訓練) ~24週間~
- 空挺降下訓練 ~3週間~
- SEAL資格訓練(SEAL Qualification Training / SQT) ~26週間~
- Navy SEALs(ネイビーシールズ)隊員を目指す ~5つの選択肢~
米海軍特殊部隊/Navy SEALs(ネイビーシールズ)入隊希望者に課される体力テスト

入隊志願者はおよそ半年にわたる選抜訓練(通称 BUD/S: Basic Underwater Demolition/SEAL)でふるいにかけられますが、その始めの一歩となるのが Physical Screening Test(PST) / 体力テスト。
この体力テスト(PST)で測られるのが、500ヤード泳(平泳ぎ/コンバットサイドストローク のどちらか)・腕立て伏せ・腹筋・懸垂・1.5マイル(2.4km)走の5種目。
余談ですが、アメリカにはヤード基準の25ヤードプールがあるって知ってました?
世界標準にあわせて全てをメートルプールにせずに、頑なにヤードプールで我が道を突き進むところ、いかにもアメリカらしいですね
(参照:木村敬一さんのnote minmiさんのアメブロ)
5種目に求められる水準は、
アメリカ海軍公式サイトによると
種目 | 実施時間 | 休息タイム(次の種目までの) | 最低ライン | 平均ライン |
500ヤード泳(平泳ぎ または コンバットサイドストローク) | 規定なし(泳ぎ切るまで) | 10分間 | 12分30秒 | 9分30秒 |
腕立て伏せ | 2分間 | 2分間 | 50回 | 75回 |
腹筋 | 2分間 | 2分間 | 50回 | 75回 |
懸垂 | 2分間 | 2分間 | 10回 | 15回 |
1.5マイル(2.4km)走 | 規定なし(走り切るまで) | なし 以上で体力テスト終了 | 10分30秒 | 9分30秒 |
また、こちらのMilitary.comでは
種目 | 最低ライン | 推奨されるライン |
500ヤード泳(平泳ぎ または コンバットサイドストローク) | 12分30秒 | 8~9分 |
腕立て伏せ | 75回 | 80~100回 |
腹筋 | 75回 | 80~100回 |
懸垂 | 10回 | 15~20回 |
1.5マイル(2.4km)走 | 9分30秒 | 9分 |
とソースにより若干の違いはありますが、SEALs入隊をめざすならば、
500ヤード泳 | 8分以内 |
腕立て伏せ | 100回以上 |
腹筋 | 100回以上 |
懸垂 | 20回以上 |
1.5マイル(2.4km)走 | 9分以内 |
がクリアできれば第一関門突破は間違いなさそうです。
ちなみに、同じ米海軍特殊戦コマンド傘下のSWCC(Special Warfare Combatant-craft Crewmen / 特殊作戦艇戦闘員)に課される体力テストの基準は
種目 | 実施時間 | 休息タイム | 最低ライン | 平均ライン |
500ヤード泳 | 規定なし(泳ぎ切るまで) | 10分間 | 13分 | 10分 |
腕立て伏せ | 2分間 | 2分間 | 50回 | 70回 |
腹筋 | 2分間 | 2分間 | 50回 | 70回 |
懸垂 | 2分間 | 2分間 | 6回 | 10回 |
1.5マイル(2.4km)走 | 規定なし(走り切るまで) | なし 以上で体力テスト終了 | 12分 | 10分 |
SEALs入隊志願者よりは緩めに設定されています。
しかし、SWCCは体力以外にも、自身が扱うボートに対するメカニックとしての知識/技術、また数学(特に代数学)の知識など、高度な知的水準も求められます。
また、1.5マイル走はかつてブーツ着用でしたが、現在はスニーカー着用に改められています。
しかし体力テストをクリアした後は、ひたすらコロナドのビーチをブーツで走らされる羽目になるので、ブーツ走に慣れておくことは必須です。
体力テスト(PST)に合格したら…
無事に体力テストをクリアし、シールズ選抜訓練の第一歩を踏み出せた候補生が送られるのが、海軍特殊戦準備学校(Naval Special Warfare Preparatory School)。
5週間にわたって更なる体力の向上をはかり、特殊部隊志願者としての準備が整っているか、再度体力テストでふるいにかけられます。
その基準の一例をあげると…
- 2分間の腕立て伏せ:70回以上
- 2分間の腹筋運動:60回以上
- 2分間の懸垂運動:10回以上
- 4マイル(6.4km)走:31分以内
- 1000m泳(フィン着用):20分以内
このテストで不合格となった志願者は、選抜訓練から外され、海軍の別の職種に就くこととなります。
BUD/S(基礎水中爆破訓練) ~24週間~
いよいよ本格的な選抜訓練の始まりです。
精神的・肉体的なタフさ、自らを律しチーム行動に必須のリーダーシップ(もっと言えば、自分で自分の行動・チームの活動に責任を持つオーナーシップ)を養うのが、このBUD/S。
24週間、それぞれの段階で定期的に体力テストが行われ、時間制限が毎週厳しいものになっていきます。
訓練は3週間のオリエンテーションにはじまり、体力調整、潜水訓練、地上戦訓練がそれぞれ7週間ずつ続きます。
オリエンテーション(”Pre-BUD/S” または ”BUD/S Orientation”) ~3週間~
BUD/Sの訓練は、カリフォルニア州コロナド、海軍特殊戦センター(Naval amphibious base)で行われます。オリエンテーションで志願者たちは、BUD/Sの体力訓練、障害物コース、他の独特の訓練についてインストラクターから説明を受け、慣れていきます。
この中央の ”US Navy Jungle Gym” が障害物コース
第1段階: 体力調整 ~7週間 ~

BUD/Sの第1段階では、体力や精神力を極限まで追い詰める体力訓練を行います。体力訓練はランニング、水泳、基本的な筋トレ(腕立て伏せ・腹筋)、丸太担ぎなどからなり、週が進むにつれてより条件が厳しくなっていきます。志願者は毎週、時間制限が設けられた4マイル(6.4キロメートル)走や、フィン着用の2.4キロメートル遠泳、障害物走を実施します。
時間制限をクリアできなかった場合は、訓練から外されます。
ここでは多少の水中工作や船舶操縦術も訓練されますが、主なこの訓練の意味は、志願者のやる気や身体的・精神的な強靭さ、他の志願者とのチームワークを計ることにあります。
また志願者は1チーム6~8名からなる”ボートクルー”に分けられ、80kgとも90kgとも言われるゴムボート(通称IBS:Inflatable Boat, Small)を運び、砂浜から激しく波打つ波高2m越えの海へと挑んでいきます。
ボートから投げ出されたり転覆することもしばしばで、歯が折れたり、骨折する志願者も出るほど危険なイベント”surf passage”を乗り越えなければなりません。

また、部屋の整頓や装備品の整備も手を抜いていないか、厳しくチェックされます。
《ヘルウィーク ~地獄週間~》
体力調整の最初の3週間は、4週目の「地獄週間(ヘルウィーク)」の準備にあてがわれます。地獄週間は日曜日の夜中にはじまり金曜日までぶっ通し、その間の睡眠時間は長くても合計4時間程度であり、200マイル(320キロメートル)以上を走り、1日に20時間以上体力訓練を行う、ネイビーシールズ選抜訓練の代名詞と言えるものです。
志願者はこの間、寒さ・空腹・寝不足の、精神的・肉体的に限界ギリギリの環境に、絶えず襲われ続けます。何度もずぶ濡れにされて低体温症の瀬戸際まで立たされたり、腰まである泥の中を進みボートを数マイル運んだりもするという過酷な課題が延々と繰り返さるのです。

各訓練はチーム対抗戦となっており、課題を1位でクリアしたチームにはボーナス睡眠時間が1時間ほど与えらます。
この地獄週間の主眼とするところは、あまりの過酷さに醜態を晒させ、仲間よりも自分を優先させる、チームプレーに適さない志願者を暴くこと。
その過酷さのため、ヘルウィークが終了するまでに、かなりの志願者が自分の意志に疑問を抱き、自ら訓練を去る選択(Drop on Request:DOR)をします。DORを選んだ志願者は、自分のヘルメットを置いて、真鍮の鐘を3回鳴らしてからその場を去ることになります。


ヘルウィークを乗り越えた者たちには少しの休息が与えられ、残りの3週間は、水路測量や水路図作製法の習得にあてがわれます。
(なおこの期間中も時間制限ありのランニング・水泳テストは課されます)
第2段階: 戦闘潜水 ~7週間~

第2段階は水中からの潜入法を学ぶ、スキューバ訓練です。志願者は開放式潜水器(オープンサーキット、いわゆる一般的なダイビングで用いられる圧縮空気を用いる用具)と閉鎖式潜水器(クローズドサーキット、呼吸の際に泡が出ない、100%の酸素を用いる特殊な用具。例:DRAGER LAR-V)の2種類の運用法を学びます。
(なお、酸素濃度100%の気体を使用する場合、酸素中毒の関係から5メートル程しか潜水できない為、上陸作戦等の一部など、使用環境は限定されます。)

また、基礎潜水医学と衛生技術訓練も習得します。さらに、特徴的な訓練として「溺水防止訓練」があります。これは、両手と両足を縛られた状態で
- プールの底から水面まで20回、あるいは5分間往復する
- 5分間浮き続ける
- プールを50メートル泳ぎ、底に足をつかずに反転して反対側へ50メートル泳いで戻る
- 水中で前後に宙返りする
- プールの底にあるゴーグルを口で拾う
- プールの底から水面まで5回往復する
のような内容の訓練を1~6まで連続して行います。
詳しくは下のページを。

ネイビーシールズは、作戦目的地までの移動手段として水路潜入を用いるため、この第2段階で志願者を一人前のコンバットダイバーに仕立て上げます。
どれほど優秀であっても、潜在的に水中が苦手な兵士はこの第2段階でふるい落とされます。
つまりこの段階は、個々の努力では乗り越えられない本能的・潜在的な水への恐怖を洗い出し、水中戦闘員として適正があるか、を評価する場でもあります。
なおこの期間中も当然体力訓練は続けられ、さらに厳しい内容となります。
第2段階の終わりには、
- 2マイル(3.2km)泳を80分以内(フィン着用)
- 4マイル(6.4km)走を31分以内(ブーツ着用)
- さらに3.5マイル(5.6km)と5.5マイル(8.8km)を完泳すること
が課されます。
第3段階: 地上戦 ~7週間~
地上戦の段階では、銃器、爆破、地図航法、長距離偵察、ロープ下降、射撃、歩兵としての戦術、チームとしての戦術、などを習得します。第3段階で志願者たちは、任務達成に必要な情報収集とその処理方法を学びます。また地図の読み方、コンパスの使い方、地図・コンパスを用いたナビゲーション、基本的な武器の技術を学ぶ座学の機会も増えます。

これにより志願者たちは、ずぶの素人レベルから現場で使える兵士へとスキルアップ。こうしたトレーニングはほとんどの志願者にとっては新しいもので、学習速度もどんどん速くなっていきます。
(こうしたトレーニングの合間も、ほぼぎりぎりの制限時間が与えられた長距離走や長距離水泳が、”もちろん”行われます。)
訓練の最後の5週間、志願者はコロナドから97キロメートル沖あいにあるサン・クレメンテ島に移動します。この島で志願者は、第3段階で習得した技術を実地でフル活用していくことになります。訓練は休むことなく毎日行われ、実弾と爆薬を扱うという危険と隣り合わせの状況でありながら、睡眠時間は極限まで削られ、ある意味”BUD/S”の中で最も過酷な段階であるといえます。

この訓練の間、担当教官らによる審議会(段階審査会と専門審査会)が行われ、能力不足のものに失格が言い渡される場合もあります。また、残留が決定したとしても、訓練があと一歩不十分と見做されるると、1つ後のクラスに再履修生として廻される事もあります。
この第3段階を修了するには、
- 2マイル(3.6km)の遠泳を75分以内(フィン着用)
- 4マイル(6.4km)走を30分以内(ブーツ着用)
- 14マイル(23km)走を完走すること
という、第2段階よりさらに厳しい条件を乗り越えることが要求されます。
そして、サン・クレメンテ島での訓練を無事にクリアした志願者は、BUD/Sを卒業したと見做され、卒業式が行われますが、未だ一人前ではなく、”SEAL候補生”として次の段階に駒を進めることになります。
空挺降下訓練 ~3週間~
24週にわたる基礎水中爆破訓練(BUD/S)を無事に修了した志願者たちは、空からの潜入能力を獲得するため、パラシュート降下訓練を受けることになります。
3週間に及ぶ訓練で志願者は、降下索による降下(スタティックライン降下)、自由降下(フリーフォール降下)の両方を習得することが期待されています。
はじめに地上訓練で、降下と着地の基本技術を学び、高さ10.4mの塔からの降下着地訓練や、ブランコ式の着地訓練を装置を使っての訓練へとレベルアップし、最終的には戦闘装備フル着用で、9,500フィート(約3,000m)以上からの夜間降下を実施する必要があります。
SEAL資格訓練(SEAL Qualification Training / SQT) ~26週間~
空挺降下訓練を終え、”空挺降下資格者”となった志願者は、さらに専門的な訓練を積んでいきます。
これにより、SEAL候補生は実際にSEALsとしての作戦に従事できる水準までに引き上げられます。
通信技術や舟艇操縦技術、近接戦闘、徒手格闘、狙撃、空挺降下、小規模部隊での戦術、医療技術、海洋での作戦における高度な技術を習得し、訓練卒業前には”生存、回避、抵抗、逃亡(Survival, Evasion, Resistance, Escape / SERE)”訓練にも挑みます。
また、アラスカ州コディアック島で3週間にわたる寒冷地訓練も行われます。

そしてこのSQTに合格すれば、海軍特殊戦章「三又鉾」(トライデント)を授与され、晴れてSEALsの一員として認められることができます。

ここに至るまでに、ネイビーシールズ隊員になるべく入念な準備とトレーニングを重ねてきたはずの、全入隊志願者のじつに75~80%が脱落するという、非常に長く過酷な道のりを乗り越えた規律ある者だけが、ネイビーシールズ隊員として活躍できるのです。
Navy SEALs(ネイビーシールズ)隊員を目指す ~5つの選択肢~
ネイビーシールズ隊員を目指すなら、まずアメリカ海軍に入隊することが必須ですが、入隊前・あるいは入隊後の選択によって5つのルートが用意されています。
(※アメリカの同盟国の兵士であれば、『基礎水中爆破訓練 (BUD/S)』に参加を許される場合があります。自衛官でもBUD/S参加の可能性ありです。)
- Enlisted=水兵・下士官としてシールズを目指す ⇒ 2つのルート
- ネイビーシールズ士官・将校プログラム ⇒ 3つのルート
(水兵、下士官、士官、将校など、アメリカ軍の階級についてはWikipediaを)
順に説明していきます。
水兵として入隊 ~初めから特殊部隊志願者として~
最もシールズになれる可能性の高いコースと言えるでしょう。なぜなら、シールズの水兵・下士官は士官・将校よりもはるかに多いからです。下士官SEALsの需要は士官よりも常に高い。その反面、シールズ士官ルートは、より競争率の高い狭き門になります。そのため将来、士官・将校として指揮官を目指す者のなかには、まず下士官として大卒でBUD/Sに参加してシールズになったのち、キャリアの後半で士官候補生学校(OCS)に行く選択肢をとる者もいます。
ステップ1. 徴兵事務所に行く
GM(gunners mate)かOS(operations specialist)として職種の希望を出す。
GMは兵器のメンテナンスや取扱いを行う兵科、OSは艦船のレーダー、ナビゲーション、通信装置などのメンテナンス・取扱いを行う兵科です。詳しくはWikipediaで。
このあと説明する「Delayed Entry Program」に参加するには、このいずれかの職種であることが条件です。
そして最寄りの、特殊作戦に通暁した「助言者(メンター)」を紹介してもらいます。元シールズや爆発物処理班、潜水士である彼ら(彼女ら)メンターは、志願者が体力テストに合格できるよう助言を与え鍛え上げることを役割づけられています。メンターのお墨付きをもらって体力テスト(Physical Screening Test)をパスした志願者は、ここで希望職種をSO(Special Operator)に変更することができます。
しかし、さらに厳しい基準の、冒頭で紹介したシールズ基準の体力テストに合格しなければ、新兵訓練(Boot camp)にすすむことはできません。
「Delayed Entry Program」とは?
一言でいうと、「入隊前に軍隊生活のノウハウを知り、体力を養う猶予期間を与えられる」プログラムです。
通常のルートで入隊した場合、入隊日を境にして、民間人としての生活から、全く未知の軍隊生活に一気に放り出されることになります。慣れるまで苦労することは、想像に難くないでしょう。
Delayed Entry Programの場合、基礎訓練に送られる前に最長で1年の猶予期間が与えられます。その間、徴兵事務所にて、基本教練や儀礼、応急処置、指揮系統や階級構成のレクチャーを受け、体力トレーニングを施されます。つまり、軍人生活をはじめる前から、軍隊生活に心身を備えておくことができるのです。
ステップ2. Boot camp(新兵訓練)にすすむ
海軍新兵は全員、イリノイ州・グレートレイクで新兵訓練を受けます。
ここで再び、シールズ基準の体力テストに合格しなければなりません。
ここで合格して初めて、特殊部隊志願者として、公式にBUD/Sへの参加資格が得られるのです。
ステップ3. Pre-Training 段階 (Post-Boot Camp and Pre-BUD/S Training)にすすむ
新兵訓練を終え、公式に特殊部隊志願者と認められた者は、BUD/S準備段階にすすみます。
この段階では、特殊作戦グループについて学び、6~8週にわたって、新兵訓練では受けられなかった特殊部隊候補生として必要な体力トレーニングを施されます。
水兵として入隊・勤務 ⇒ 選抜訓練を受ける
この選択肢は、かなり長い道のりだと覚悟しなければなりません。
なぜなら日中は通常の勤務でへとへとになりながら、勤務後にシールズ基準の体力テストをクリアできるよう、自分を追い込んでトレーニングしなければならないからです。もちろん、実際にそうしてシールズ隊員になった先人たちはいますが、並々ならぬ決意と努力を要するでしょう。
時間の不規則な勤務形態や、空間的制約を受ける艦艇勤務であれば、なおさらです。
また本人の意思だけではなく、外部要因も影響してきます。
BUD/Sに参加するには、特別要請書を自身が所属の指揮系統に提出し、現在の指揮系統下での勤務が終了するまで待たなければなりません。
ただし、すでに艦隊に所属している水兵を、BUD/Sへの準備に向けて出向(Temporary Duty Assignment / TAD)させ、水泳、ランニング、筋力トレーニング、その他SEALやSWCCの基本的なスキルについて、基礎から応用まで学ばせる、Fleet Transition Program (FTP)というサポート制度もあることもお伝えしておきます。
余談ですが、シールズにはアメリカ海軍軍人しかなれません。海兵隊員も陸軍兵も空軍兵も、シールズに入りたいと思ったら、いったん除隊したのち海軍に入り直す必要があります。
一方、同じく精鋭特殊部隊として知られる、アメリカ陸軍のデルタフォースは、そのバックグラウンドを陸軍に限定せず、全軍から候補者を受け入れています。
ネイビーシールズ士官プログラム(海軍兵学校コース) ~US Naval Academy(USNA)~
海軍士官を養成する、狭き門である海軍兵学校から精鋭部隊シールズを目指すルートです。海軍兵学校に入校した日から、シールズ隊員になるという同じ志を持ったクラスメートやBUD/Sに向けて訓練している先輩たちと、切磋琢磨の4年間を過ごすことになります。
現役のSEALsによるサポートも受けつつ、3年次になると選考が始まります。多くの体力テストを受けるだけでなく、BUD/Sスクリーニング(24週間に及ぶBUD/Sの要素を36時間に凝縮したイベント)を乗り越えなくてはなりません。
通常、4年次になると、SEALs隊員を熱望していた100人以上のクラスメートのなかで、その志を保ち続けられる者は40~60人に減りますが、高い資質を誇るそんな彼らのなかでも、毎年20~30人にしか枠が与えられません。成績、責任ある仕事に積極的に取り組んだかどうか、スポーツや競技会の結果、外国語、そして社会奉仕の時間までもが選考に影響します。
4年次に上がる前の夏にはSEAL将校評価選抜訓練(SEAL Officer Assessment and Selection Training)に参加し、SEAL将校と上級下士官による個人面接で評価を下されます。SEAL将校評価選抜訓練では、フィジカル・スクリーニング・テスト(PST)のスコアからリーダーシップの資質やチームワークに至るまで、あらゆるテストを3週間受けます。ここから、インストラクターが翌年の学生としての資格を判断・決定します。
ネイビーシールズ士官プログラム(予備役将校訓練課程コース) ~Reserve Officer Training Corps (ROTC)~
まず、日本では馴染みのないROTCについて簡単に説明します。
ROTC(アールオーティーシー) / Reserve Officer Training Corpsとは、アメリカ合衆国の一般大学内に設けられた予備役将校訓練課程です。ROTCの修了者は陸軍士官学校・海軍兵学校・空軍士官学校などの卒業生と同様に初級将校(少尉)に任官します。詳しくは、Wikipediaで。
そして、このROTCの卒業生には卒業後にBUD/Sに参加する機会が与えられます。毎年およそ15~25人が、このROTCからSEALsの士官・将校として選抜されます。この人数枠を多いと見るか、少ないと見るか。なぜなら全米すべてのROTCプログラムの中からたった15~25人です。非常にチャレンジングな狭き門と言えるでしょう。
参加条件としては、上のUSNAやこれから述べるOCS同様、成績、スポーツ、リーダーシップ、PSTのスコアなどが合格に影響します。どの大学が海軍ROTCを提供しているかは、ROTCの公式ウェブサイトを参照のこと。また、ROTC候補生はUSNA候補生同様、4年次になる前の夏にSEAL将校評価選抜訓練(SOAS)に参加します。
ネイビーシールズ士官プログラム(士官候補生学校コース) ~Officer Candidate School (OCS)~
士官候補生学校に応募するには、大卒の学位を持っていることが条件です。軍隊での指揮官を目指す大卒の若者には多くのチャンスがありますが、特殊部隊の将校枠は少なく、実際、このOCSプログラムを終えてSEALs訓練に参加できるのは8人に1人程度です。
士官候補生学校(OCS)に応募しSEALsを目指す者は、OCSを修了するとただちにBUD/Sに選抜されます。したがって、OCSに参加する前にSEAL将校評価選抜訓練(SOAS)を修了しておかなければなりません。