シンプルに見えて奥が深い
基礎でありながら、じつは水泳の極意が詰まっている『蹴伸び』
初心者から水泳上級者に一気に飛躍できる、とっても簡単な練習法をご紹介します。
陸上で練習できる《正しい蹴伸び》のコツ
1.まず床に仰向けに寝転がります。

2.そこから両手をゆっくり頭上に上げていき、手のひらを重ねます。

これだけです。
解説していきますね。
長くなりますが、お付き合いください。
解説
キーポイントは《抵抗と浮力》
蹴伸びはどんな泳ぎ方をするときにも関わってくる基礎中の基礎。
正しい姿勢ができていれば、初心者でも滑らかにスイーっと10mは進めるようになります。
ここで大事なキーポイントが《抵抗と浮力》
正しく蹴伸びができていれば、最小限の抵抗で・最大限の浮力を生かした泳ぎができます。
しかしそれができていないと、体力を消耗するばかりでなかなか前に進まない、非効率な泳ぎになってしまいます。
水の密度は800倍
水の密度は空気の約800倍。水中での動きは陸上の12~15倍の抵抗1を受けます。
つまり楽に・速く泳ぐための水泳上達のポイントは、どれだけ水の抵抗を減らせるかにかかっています。
水中ウォーキングをすると、身体全体が水に押し返されるのを感じますよね。
このとき身体を真横にして進むと・・・ いくぶん楽に進めますね。
水に対して当たる面積を減らせば、それだけ抵抗も減り、少ない力でより速く前に進めます。
けのびで抵抗になってしまう大きな2つの原因が、『頭』と『脚』です。
初心者は、水に対する恐怖心からなのか、前を見たい不安からなのか、どうしても顔を上げたがる傾向にあります。
しかしこれは、改善しなければいけない点です。なぜならば…
・顔を上げると水の抵抗が増す
・顔を上げると脚が沈む
顔を上げる(つまり頭を反らす)ほど、頭が背骨のラインからはみ出していきます。


難しく言うとこれは、前面投影面積が増すということです。
《前面投影面積》を減らせ!
人間の背骨はゆるやかな湾曲を描きながら、骨盤と肩と頭が一直線上にならぶようにできています。
つまり顔が正面を向いているとき、すべてが適正位置に収まっています。

頭を反らすと、頭だけがラインからはみ出します。


水の抵抗を減らすには、できるだけ前面投影面積を減らすことが必要です。
ですから顔は正面を向いておきたいところ。
じつは脚が沈むことを避けたいのも同じ理由です。
脚が沈むと、胴体のラインから逸脱し、抵抗を増やす原因になってしまいます。


カーレースや自転車に詳しい方なら、スリップストリームとかドラフティングというとイメージしやすいでしょうか。
そしてここで、浮力のはなし。
人体に働く浮力
人間の比重は、空気を吸った状態で0.98程度。つまり真水(比重1.00)より2%軽く、全身のうち2%が水面に出て浮くことができます。
(参照:公益財団法人 日本セーリング連盟)
体重70kgなら1.4kgぶんの部位が水面から出られる計算。
頭が1.4kgぶん以上出ていれば他の部位は確実に水没するし、頭が水面下であれば胴や脚が浮きます。『頭』と『脚』はシーソーの関係。頭を上げれば脚は沈みます。水泳は科学です。

そこで《仰向け寝》の出番
仰向けに寝ると、頭と背骨のラインが揃い、目線が真上(天井)に落ち着きます。
実はこの姿勢が、前面投影面積が最小になる理想の姿勢です。
次にそこから両手を上げていくと…
お腹がへこんで力が入るのを感じませんか?
これが体幹にスイッチが入った状態です。
脚が沈んでしまうのは、頭が上がるのと同時に体幹で支えていないから、なんです。
誰も教えてくれない真実なのですが、じつは泳ぐときの基本姿勢って常にお腹を絞っているんです。
この感覚を身に付けるのに、仰向け寝がベスト(だと私は思っています)。
また結構大事なことなんですが、仰向け寝で床に接している部分って、けのびで水面から出ている部分とそのまま一致することに気付きませんか?

すなわち仰向け寝を180°反転させて床を水面に置き換えれば、そのまま理想の蹴伸び姿勢が出来上がっているんです。

この練習法を編み出してからは、ストリームライン(抵抗を最小限に抑えた理想の流線形)が劇的に改善しました。
何よりプールに行かなくても自宅で手軽に練習できるので気に入っています。
私はプールに行ったときにはプールサイドで、泳ぐ前に必ず仰向け寝を確認しています。
目を閉じて体の感覚を落とし込んで、プールに入ったらその感覚をそのまま再現して蹴伸び。
理想の美しい蹴伸びがいつでも再現できるので、おすすめです。
*補足*
お腹がへこんで力が入った状態は、重心が胸側に移った状態です。
これはむしろ立位で試すと実感できますが、お腹をへこませると肩甲骨の下あたりのテンションが高まるのを感じませんか?
そこからお腹を弛めると、一気に重心が下腹部にドスンと落ちてくる感覚があると思います。
つまりお腹をへこませると、体幹を使えるのと同時に重心も上に移るので、それだけ脚が沈みにくくなります。
さらに深堀り中級編
シンプルに『1.仰向けに寝て 2.両手を頭上にあげていく』だけでも、あなたの蹴伸びはかなり改善します。
ですがさらに洗練させるならば、意識したいのが・・・
①つま先までピーンとしっかり伸ばす(足の甲を伸ばす)
②両膝が離れないようにピタッと付けてそろえる
③つま先だけでなく、手指もしっかり伸ばす
④腰を反らせすぎない。お腹で抑える
⑤肘を締める。だけど肩は力まない
(肩甲骨から伸ばす)
①から③は、寝る前に伸びをするときみたいに手先・つま先までグーンと伸ばすイメージ。
意外と重要なのが②。これができていると抵抗が減り、進める距離がさらに伸びます。
④は、仰向け寝で息を吐いていくと『腰をお腹で抑え込む』感覚がつかみやすいと思います。
⑤は・・・頑張って習得してください。
全体として、適所に力は入れているけど、不必要に力んでいない状態が理想です。
力まず、全身一体感で浮いている・・・ 自分の体がサーフボードになったような感覚でしょうか。
壁に背中をつけてやるのはダメなの?
床じゃなくても壁を使って同じような練習が出来そうですが、脚を脱力させるには壁だと不十分です。
また両手からつま先まで、グーンと伸びている感覚も、体軸方向に重力がかかっていないほうが掴みやすいです。
ですから感覚を磨くには、床でやることをおすすめします。
- 形状と動く速度によって抵抗値は変わります。円柱より先のとがった円錐のほうが抵抗は少なくなるし、早く動かすほど抵抗は大きくなり、ゆるやかに動かせば抵抗は小さくなります。極端に言えば、動かなければ抵抗はゼロ。 ↩︎
<おまけ>プールのあの悩みの対処法を解説