クロールの息継ぎを成功させたいなら、『太ももを触れ』そして『肘を見ろ』です。
今は、「何を言ってるんだろう??」と頭のなかが疑問符でいっぱいだと思いますが、どうぞ、最後までお付き合いください。
さて、こちらの記事では、水泳の呼吸の原則について、お話ししました。
今回は、それを踏まえたうえで、クロールの息継ぎを解説していきます。
まず大前提です。
この解説は、クロールの息継ぎに問題を抱えてる人向けです。
そもそも適切な息継ぎの仕方がわからない・いつも水を飲んでしまう・どうしても恐怖感が克服できない、そんな方には参考になると思います。
私自身が克服してきた道のりを記事にまとめたので。
一方、記録向上やスピードを追及する方は、
「そんな考え方もあるのか、ふーん」程度に軽く捉えていただけると幸いです。
それでは、始めていきましょう。
まずは目一杯息を吸い込むこと
大事なことなので、何度でも強調します。
肺を空気で満たしましょう。
浮力を最大限活かせれば、それだけ息継ぎも楽になります。
吐くための時間を設ける
こちらでも解説したように、ちゃんと吐けていないと、苦しくなります。
二酸化炭素の排出が不十分だと、呼吸性アシドーシスという状況に陥るからです。
しっかり量を吐けていれば、同じだけ吸えばいいだけなので、持続的な呼吸が可能です。
ここでのポイントは、吐くための時間をきちんと設ける・決めるということ。決して息継ぎの短いワンアクションで、「吐いて吸う」を詰め込まないでください。
どういうことか?
4ストローク呼吸を例に説明しますね。
(右・左・右・左の4搔きで、ひと呼吸のサイクル)
思い出してください。呼吸は「吐く・吸う・止める」の3サイクルです。
しかし実際の泳ぎ始めは、すでに吸い切って『止めた』ところからが
スタート。
なので、「止める・吐く・吸う」に順番を置き換えます。
さて、短いワンアクションに「吐いて吸う」を詰め込む、とはどういう意味か?
4ストロークでは、1.2.3.ストロークまでは「止める」。そして4ストローク目で顔を上げた時に、「吐いて吸って」を短時間で行うことを意味します。
これが2ストロークであれば、1ストローク目は「止めて」、2ストローク目で顔を上げた時に「吐いて吸う」ことです。
これだと、呼吸に余裕がもてません。
『吐くための時間を設ける』、とは4ストロークでいえば、1.2.ストロークは「止めて」、3ストローク目から「吐き」はじめ、4ストローク目で顔を上げた時に「吸う」。
2ストロークならば、1ストローク目から「吐き」はじめ、2ストローク目で顔を上げた時に「吸う」。
すなわち、水中から吐きはじめるということ、です。
ところで、オリンピックや国際大会などで、競泳選手がコンスタントに鼻から息を出し続けながら泳いでるシーンを目にしたことはありませんか?
競泳を本格的に学んだことがないので、その真意は私にはわかりません。
ただ、我々の目指すところは、根本的に彼らとは違うので(タイムは追及せず、楽に泳げる息継ぎを身に付けたい)、これには深入りしません。
浮力を最大限活かすためには、できるだけ肺の空気は保ちたい。
そのため、私は『止めるべきは止める』を推奨します。
吐くのは『鼻』から?
『鼻で吐いて、口で吸う』というのは息継ぎの鉄則の項で説明した通りです。が、補足すると、吐くのは『鼻から』だけではありません。
息を吐く最終局面では、「パッ」と口からも吐きます。
つまり、最後は『鼻と口と両方から』吐く形になります。
理由はこうです。
水には、それなりの粘性があり、皮膚にまとわり付こうとします。
口からパッと吐くことで、口の周りの粘性のある水を排除する狙いがあります。言い換えると、まとわり付く水を、口の周りから剥がし飛ばすといった感じでしょうか。
粘性のある水にどう対処するか?
これも水泳ならではの、呼吸のコツです。
体を沈めないためには
息継ぎを成功させるには、『体を沈めない』『浮力を活かしきる』という、下地作りも大切です。
じつはこの際、『プッシュ』が非常に重要なカギになります。
プッシュが大事
『プッシュ』とは、クロールの腕の動きのなかで、最後の掻き切るまでの工程。
ちょうど、この女性の左手がプッシュし切ったタイミング。

この『プッシュ』では、手のひらの向きが非常に重要になります。
腕を自然に後ろに動かしていくと、もっと細かく言えば、腕を弧を描くように円運動的に動かすと、最終的に手のひらは上向きになります。

これ、ダメな例です。
手のひらが上を向くということは、その反力(=反作用)は体を沈める方向に働きます。体が沈めば、当然呼吸は辛くなります。

こうならないために、手のひらは後ろに押しやることが、必要です。
もう一度言います。体を沈めないためには、手のひらは後ろ向きに押し切ることです。

また、『浮力を活かしきる』ために重要なこと。
それは、最後まで『掻き切る』ということです。
最後までしっかり掻き切ると、エネルギーを余すことなく推進力に変えることができますし、重心も前に乗りやすく、伸びが効果的に活かせます。
反対に、手を中途半端なところで引き上げてしまうと、最後まで掻き切るはずだった分のエネルギーをロスすることになります。また、体の伸びも、中途半端に終わってしまいます。
伸びを意識すること。じつはこれ、非常に重要なことなんです。
伸びれば伸びるほど、浮力も安定しますし、推進力も生かせます。
蹴伸びのコツで解説したように、仰向け寝で両手を伸ばすと、お腹の伸び感が得られるはずです。さらに手先からつま先までグーンと伸ばせば、全身が一体となった伸びを体感できるでしょう。
『グライド』という言葉、聞いたことありますか?
滑るように動く、滑走する、滑空する、という意味です。
水泳の世界では、『グライド』=滑るように水に乗る、イメージでしょうか? 自分がサーフボードになったようなイメージ。
滑らかに水に乗るには、伸び切ることが重要です。
掻き切らずに呼吸してしまうのは、なぜ?
タイミングと焦り
プッシュの腕をしっかり掻き切ることが大事、というのはお分かりいただけたでしょうか?
ただ、『腕を掻き切らずに中途半端なところで上げてしまう』人がいるのは、事実です。私もそうでした。
これについての考察です。
『腕の掻き』と『顔の回転』を連動させると、割と早いタイミングで顔が横を向き始めます。
このペースで呼吸を始めると、息継ぎを終えて顔を戻すときには、場合によって、まだプッシュ手は伸び切っていない状態。
言い換えると、肘が伸びずに曲がった状態。

ここから腕を戻してしまうんです。
これでも息継ぎはできるんです。
できてしまうんですが、掻き切っていないんですよ。
つまり、息継ぎを焦る気持ちが、動きを急かしてしまい、動作の最後まで追い込めないのだ、と分析しました。
焦らずに、我慢
ですから、腕の掻きと顔の回転を連動させる場合、肘が伸び切るまで顔の戻しを我慢するか、顔を戻しても手を掻き切るまで(肘が伸び切るまで)我慢するか。
いずれにしても、『我慢』が必要になります。
少なくとも私個人は、いつも堪えられずに、タイミングが早まっていました。
太ももを触れ!
この『無意識の焦り』を何とかするために辿り着いた解決策が、太ももを触れ、です。
もっと言うと、『親指で太ももをなぞれ』です。
『なぞる』、とは?
プッシュ手の親指で太ももに触れ、そこからなぞるとどうなるか?
なぞっていくと、これ以上は肘が伸びないという最終端まで行きつきます。
そこで初めて、手を水面に出す(リカバリーに入る)のです。
肘が曲がっているか、伸び切ったか、という感覚は、じつは案外曖昧で意識しづらいものです。
私たちの関節が、伸びているか・曲がっているか・どのような状態にあるか、を感じ取っているのは、プロプリオセプター(固有受容器)というセンサー。
目を閉じて、例えば肩や肘や膝を動かしてみて、正確に寸分の狂いもなく、頭の中でその動きを追えますか?
追えているように思えても、目を開けて視覚で捉えるよりは、実体性が曖昧に感じられないでしょうか?
視覚や触覚などの五感のほうが、より確実に感覚としての実感を伴って知覚できます。
そのため、『肘が伸びているか?』をプロプリオセプターに問うよりは、『親指が太ももに触れ、最後までなぞり切った』触覚を追うほうが、容易なのです。
泳ぐ際には、さまざま意識しなければならないポイントがあります。
その注意すべきポイントは、少なければ少ないほどありがたいし、濃く意識を集中するよりも、薄く注意を向ける程度のほうが、泳ぎそのものに集中できます。
水泳をはじめとした『運動』は、動作の継ぎ目のない連続です。
ひとつひとつの動きに全集中していては、上達までに時間がかかります。
『全集中=大脳フル活用』ではなく、頭の片隅で『無意識に近い意識で捉える』ことができれば、同時進行で薄い意識を次々バトンタッチさせるマルチタスク処理が可能になるのではないでしょうか?
同じ『感覚』を利用するなら、より確かな感覚に頼りましょう。
初歩的なことですが、『グライド』できてますか?
ここで一旦、初歩に寄り道します。
『グライド』、できてますか?
「何をいまさら… 言われなくても出来てますけども?」という方、もう一歩踏み込んで聞きます。
『力まずに出来ていますか?』
さて、一般論です。
力めば、固くこわばるし、縮こまります。
脱力すれば、柔らかくゆるむし、伸びます。
グライド時は、力みは必要最小限で、あとは脱力できているのが理想です。
たとえば、お腹をへこます、膝が開かないようにキープする、両腕を真っすぐ伸ばす、以外の力は抜けていたい。
わかりやすく全身ギューッっとガチガチに力んでいたら、滑らかなグライドはできないだろうことは、イメージできますよね?
たとえば両腕を真っすぐ伸ばすにしても、腕や肩の力はできるだけ抜いていたいし、肩甲骨も柔らかく動いてほしいんです。
力みすぎず、脱力しすぎず。力を入れる・抜くのバランスが大切です。
グライド時の肩甲骨は?
グライド姿勢をとっている時、肩甲骨は、『内転・挙上・上方回旋』の動きをしています。
内転は、肩甲骨を真ん中(背骨)に寄せる動き。
挙上は、肩甲骨を頭のほう(上)に引き上げる動き。
上方回旋は、肩甲骨の上の内側の角をピボットにして平面上に回転する動き。

ここで、コツの付け足しです。上方回旋をあと一歩後押しするには、小指を上にするように(肩を入れるように)捻ってみてください。


狭い隙間の奥に物を落としてしまった場合。
真っすぐ手を伸ばしてもギリギリ届かないとき、顔を反らして、肩を入れるようにグーっと伸ばしませんか?(自然に上方回旋が促されるのです)
最後のひと伸びを演出する、ちょっとしたポイントです。
というわけで、グライド姿勢にここで修正を加えましょう。
手のひらを揃えて重ねる ⇒ 肩を入れるように、絡ませるように組む


これで、もうひと伸びを演出しましょう。
意識すると、力む
人というのは不思議なもので、意識したところに力が入りやすい傾向があります。ボディビルダーが、二の腕見つめながらダンベルの上げ下ろしをするのも、まさにその習性を利用したもの。
「腕を伸ばそう!」と意識すると、腕が力みがちになります。
脱力させたいのに、脱力できない。
ならば、意識を別のところに持っていきましょう。
『脇を伸ばす』、イメージを持ってください。
タカラヅカの男役が『おおらかに』腕を伸ばす、あるいは両手を拡げるときのイメージ。
私自身は、『脇に乗る』の感覚が強いです。
脇に体重を乗せる、というか、『自分の脇がサーフボードになって、そこに乗っかる』イメージを使います。わかりにくく、万人受けしない感覚ですね。。
力まないために、『捨てる』
また、力みを出さないために、私は『捨てる』感覚を大事にしています。
どういうことかと言うと、プッシュする腕は後ろに放り捨て、グライドする前方の手は前に投げ捨てる感覚です。
なにかを放るときや、投げるときって、終わりまでガチガチに力を効かせるんじゃなくて、野球選手の送球時のように、最後はいい感じにスナップを効かせて脱力しませんか?
では、『捨てる』練習をしてみましょう。
『捨てる』練習
▼プッシュ、後ろに放り捨てる練習です。
①立った姿勢でプッシュの始まり(手が肩のラインにきて、水を後方に掻きはじめるところ)のポーズをとる
②そこから腕を完全脱力して、重力に任せてストンと腕を落とす
③慣れたら、ただ落とすのではなく、手を下に放り捨てるように勢いをつける


▼グライド、前に投げ捨てる練習です。
①腰を90度ぐらいに折り曲げて立つ
②片腕を肩と水平ラインに上げる
③そこから腕を完全脱力して、重力に任せてストンと腕を落とす
④慣れたら、ただ落とすのではなく、手を下に投げ捨てるように勢いをつける


プッシュ・グライド、どちらも、力を使わずに、ほぼ勢いだけで腕を動かせることがご理解いただけることと思います。
『捨てる』感覚が掴めると、力まないだけでなく力に頼らない省エネな泳ぎが手に入ります。
また『捨てる』ことで、プッシュの手は自ずと最終端まで伸びてくれます。
『親指で太ももをなぞり』、同時に『捨てる』ことで、肘の伸びたエネルギッシュなプッシュを手に入れましょう。
顔の向きを工夫しよう
さあ、これで呼吸に入る下準備が整いました。
いよいよ水中から顔を上げて、息継ぎをしましょう。
水を飲まない工夫として、口から水を剥がし飛ばすことはすでに説明しました。
ここでもう一つ工夫します。
頭で壁を作りましょう。
息継ぎでは、真横を向く方がほとんどかと思います。
真横ではなく、斜め後ろを見てください。
そうすると、頭が水を遮る壁となり、格段に水を飲む確率が減ります。

(『斜め後ろ』を見る、と書きましたが、後述するように、見るのは『ほぼ真後ろ』です)
さて、目線を斜め後ろに持っていくには?
ようやく『肘を見ろ』の出番です。
肘を見ろ
だいぶ長くなりました。
いよいよ結論に至ります。
プッシュし終わった腕が前に戻ってくる、その腕の『肘を見て』ください。
肘を見ようとすれば、自ずと目線は後ろを向きます。
すなわち、頭で水を遮る壁が作れます。

この角度でも、『肘を見る』と口が頭の影に入るのがわかる
また、肘を見ることで、息継ぎのタイミングをいい意味で遅らせ、『無意識の焦り』を阻止することができます。
さて、肘を視界に収めようとすると、顔の向きは斜め後ろというより、肩越しに、ほぼ真後ろを振り返る形になります。
というわけで、先に述べた『斜め後ろ』は、『ほぼ真後ろ』に修正します。
あらためて強調します。肘を見る、シンプルにこれだけ頭に入れて徹底してください!
まとめ
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
ポイントをおさらいします。
- はじめに肺を空気で満たすこと!
- 吐くための時間を設けよう
- 吐くのは鼻と口から。まとわりつく水をパッと口から剥がし飛ばそう
- プッシュの手のひら、向きは後ろ
- プッシュはしっかり搔き切る
- 『太ももを触れ!』
- 『腕を捨てろ!』
- 『肘を見ろ!』
以上、参考になりそうなポイントを取り入れてみてください。
『息継ぎが苦手なんだよなぁ・・・』が、一人でも減ることを願っています。
水泳ライフ、楽しみましょう!
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